かなしみを知らない/壮佑
 
っていた

カン女は
イサクンに会いに岩礁へ渡った

満潮の時に姫虎魚(ヒメオコゼ)に刺されたら
干潮まで性夢を見るんは知っとるど
じゃが かなしみは知らん
海に聞かにゃあどもなるまあ
岩礁の魚や蛸を銛で突きながら
イサクンが言い終わると
カン女はイサクンになっていた

イサクンは海の沖へ
舟を漕ぎ出した

碧い海は
たくさんの小島を浮かべて
何処までも広く深く
潮の流れが
木切れや白い漂流物を
大きく弧を描いて運んだり
所々で渦を巻いたり
懐に魚群を回遊させて
青空では鳥達が
魚を狙って鳴きながら
てんでに舞っている

鳥達が鳴き止んだ時
イサクンは
ぼくは
海になった

かなしかった







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