鳩は人より情熱的だ/ただのみきや
 
学園都市線の高架下
灰色の橋脚に二羽の鳩が仲睦まじく
寄り添ってはキスをして
激しく身をよじってはまたキスをして
やがては重なり 羽ばたきながら

気の早い春が固い雪を緩め
茶色く水っぽく汚れている
頭上を電車が通るたびに
空間がゴウゴウと鳴り響く

一羽が下に降りてきて
喉を潤している
水たまりに口をつければ
そこに映った自分の姿と
また キス

線路沿いの安アパートに住む
若い外国人夫婦みたいに
鳩はそこに暮らしている
たぶん生きるということは

まわりをとりかこむ哀愁や
世の不条理な出来事に縛られなくても
よいのだろう 本当は
ただ生きているだけでも 
許されるのだろう

寄りそう誰か
キスする誰かがいれば
あれこれ理由を捜さなくても
幸福か不幸かなんて考えなくても

だが
鳩には翼と素直な欲求が
人には理屈とひねくれた欲望があるのだ

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