蝿/ズー
 
トにむきあっている広場からはなれた。
たぶんきみは、まだあそこにすわり、あたたかい地方のつづりで、カカオは、あなたにとって鼻出血をあっかさせる危険性をたかめます。と書かれた包装紙をにらみつけているはずだ。
それから。僕は。それからのことをおもうんだけど。


きのう、数週間ぶりにたずねてきて、あさになると、家のどこにもみあたらないきみのようななりで、きみやぼくじゃない人はすててしまうデッキシューズの染みになった蝿が、なにもきかなくていい日の主旋律みたいにその羽をやすめている。まだだ。まだきこえてこない。


とてつもなくたいせつなことばがペイントされた看板のまえで。そうぞうもしたことがないまちのそとで。あの花の種子がまかれない土地で。きみのかじるチョコレートがとけない場所で。ぼくはタクシーからおろされる。
なにも聴かなくていい日のまひるをすこしすぎて、染みになった蝿が目をひらく瞬間に、デッキシューズのかかとをすりへらして。
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