埋めるために/竜門勇気
きずに眺めていた出窓から 最期の世界を
濡れたタオルで体を拭いてやった
彼が生きている間に僕は
学校から逃げたり彼女が出来たりふられたり自分を殺そうと試みたりまた人を愛したりした
セミが夏以外にも決して世界から消え失せてはいないように
確かにそこにいたのだ
濡れた鼻を振り回してわがままをいったり
僕が泣いていたら心配気に低く吠えたり
確かにそこにいたのだ
肛門から小指の先ほど糞が顔を出している
毎朝六時に彼は父に庭に放ってもらって糞をするのが日課だった
今僕はルイ・アームストロングの聖者の行進を聞きながら
こんなふうに格好つけた詩を書いて追いだそうとしている
送り出そうとしている 手をふろうとしている
キーボードはただのぼやけた線の塊になる
二重になってぐるぐる回ったりもする
心の中には彼はいる
けど それは彼じゃない
ごまかしてしまうよりは
ひとつぶ残らず悲しもうと誓う
目を閉じさせてやろうとまぶたを触ると
眼球が空気の抜けた風船のように柔らかくたわんだ
それでもその目はやさしく僕らを見ている
最期の世界を見ている
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