祈りの船/サイン・アウト/茶殻
 
JRから東武線への通路は朝から混雑し
僕はひたすらまっすぐ歩く作業着の僕を
高い窓の外から眺めている
通路の真ん中には真っ赤なテープが貼ってあるのに
右にも左にも進行方向を示す矢印がなくて
自ずとぞろぞろとぶつかり合う波の中央からやや奥の方
ひたすらに歩く僕は人と接触する瞬間に
相手に溶けてそしてくぐり抜けていく
まかり間違って血管の網に引っかかる不安
は杞憂に終わり
あばらの櫛で漉かれて僕は砂のように復元する
或いは妊婦をくぐれば
胎児を奪うかもしれない
心臓疾患の中年男性をくぐれば
ペースメーカーをこそぐかもしれない
少年がランドセルに隠した痣を掠め取ってそれをす
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