私は生きる/AquArium
此処で何事もなく過ぎて往く時を
無抵抗で待っていた遠い日
せっかくの花火大会すら目障りで
人波を蹴散らすパワーでもって
迎える朝はひどく冷たい灼熱の夏
何も聞こえないイヤホンを
はめた右耳の奥が泣いていて
コンタクトレンズを外した眼球の
ダストにまみれた視力は弱い
渇ききった湿度80%のもどかしい夏
やがて窮屈な箱の中の
息苦しい空調を破壊する
無数の死んだ魚の目が
無知ゆえに煌々と泳いでいる
差し伸べてくれる手は何処にもないのよ
だから葉が地面に吸い込まれて
血管みたいな枝が
春を呼んできたら
尾びれが切れてしまっても
跳ねて地上に出なければならない
微かに聞こえるイヤホンの
左耳の奥は耳鳴りが湧きだしていて
裸眼で見た三原色が
3000万画素の世界に編集されていく
じわじわ湿り始めた生温かい冬
此処で何事もなく過ぎて往く時を
ヴァイオレンスさを纏って覚悟する日
せっかくの冬空の星でさえ捨ててやる
世界を蹴散らすパワーでもって
迎える夜はひどく明るい澄み切った冬
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