首長竜/壮佑
子供の頃
ぼくは信じていた
何処か遠いところに
黒い湖があって
そこには首長竜が棲んでいる
(お父さん
黒い湖はどこにあるの?)
ぼくが尋ねても
お父さんは何も答えずに
毎日山へ働きに出て行った
ぼくは地図帳を開いて
湖を見つけては黒く塗り潰した
霧に覆われた湖面から
首長竜が水飛沫を上げて首をもたげる
そんな想像をして
夜になるとすぐに眠った
真夜中にふと目覚めると
窓から首長竜が覗いている
なんだか寂しそうな眼
(お父さん
ゆうべ首長竜がきたよ)
お父さんは笑っていた
それが何度も繰り返されて
ぼくは地図帳を塗らなくなった
そして大人になった
(お父さん
黒い湖はどこにあるの?)
息子がぼくに尋ねても
何も答えずにオフィス街へ出勤する
夢の中の首長竜のように
寂しい眼をして
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