読むあなた/ただのみきや
壁紙を剥がして行った
すべてを偏った現実の粗悪な複写に変えようと
断片的な知識で肥大した頭から幼児の癇癪が噴出していた
ぼくには 彼らを殺す権利はなかった
ぼくは涙をながし あなたは読み続けた
読み続けた
読み続けた
白髪となり年老いたあなたのまわりを闇が取り囲んだ
ぼくにはもうぼんやりとした影しか見ることができなかった
若きあなたは新しい朝を迎えていたのかもしれない
一冊の本を読み終えて 今 新しい本が開かれる
あなたの読む詩の中に もうぼくはいなかった
ぼくの書く詩の中に あなたの影だけが残っている
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