ぬるい風/壮佑
よく晴れた夏の日の朝、私は海岸沿いを走る電車のシート
に座っていた。ふいに砂浜のぬるい風が窓から吹き込んでく
ると、私が飲み干したペットボトルの中に、しゅるしゅると
渦を巻きながら吸い込まれてゆく。そのとき私はもう少しで
喃語を喋りかけたが、ペットボトルの中で魚の鱗がキラッと
輝くのが見えたので、あわてて蓋をした。
ペットボトルはたちまち風船のように膨らんできた。身を
離して見ていると、終いにはパーンと破裂して、一瞬の間あ
たりには何も見えなくなった。気が付いたら電車は何の変わ
りもなく進んでいる。しかし窓の外は海の底になり、海藻が
揺れる珊瑚の周りを魚が泳いでいる
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