看護師だった頃のこと/板谷みきょう
天井と扉の隙間から
個室に入り
「吃驚したぁ…探したよ。
こんな所に居たの?」
そう言って肩を揺すると
首がぐらんとして顔が上を向く
土色の顔で流涎が垂れている
脈、取れない
息、してない
トイレに寝かせ
当直医へ連絡をして
心臓マッサージをする
かつて
先輩が言ったように(※1)
躊躇することなく
マウス・トゥ・マウスを始めた
直ぐに他の病棟の職員も
当直医も駆け付けてくれた
ほんの15分の間に起きた
突然死だけど
蘇生術は当直医、
他病棟の夜勤看護師らにより
充分すぎる程の手当てが行われ
それでも、彼は
帰らぬ人ととなった
何度も含嗽をしたけど
いつまでも
冷たくぬめる
柔らかい唇の感触が
残っていた
※1参照:http://po-m.com/forum/i_doc.php?did=247971&from=i_doc.php%3Fdid%3D247971
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