君/salco
 
目を瞑っても嫌な事はそこに在る
目を瞑っても轟音からは逃れられぬように
耳を塞いでも恐ろしい事は起こっている
耳を塞いでも嗅覚は異臭をとらえるように
鼻をつまんでも根本事由はごまかせない
鼻をつまんでも吐き気をもよおすように
口を塞いでも人に沈黙はない
口を塞いでも心は殺せぬように
そして地団駄を踏み隠れても
世界はなくならないよ

バカづらもバカ笑いもしないのは
伝説的人物みたいに賢明だからではなく
単なる意識過剰のせい
君の神経はその部屋の空気や人口密度に
ぴりぴり震え張りつめる
君の心は眼前の人の背後に先回り
四メートルの向うから自分の歪んだ笑いを見ている
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