石狩海岸の海水浴場の思い出/板谷みきょう
 
泡状の唾液や食物残渣、海水で
口の周りが汚れてる

先輩は
すぐさま掌で口を拭って
マウス・トゥ・マウスを始めた

救急車が浜辺に到着し
運ばれた後、先輩は一言
「何で躊躇った?」
一瞬ひるんだことがばれてて
その一瞬で生死が別れること
命を巡る決断は
迷わず行えと叱られた

その先輩は
四十台で癌で死んだ

あの時、四十歳は
爺さんだと思っていた

AEDなんてまだ無かった頃
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