飲みかけのビール/草野春心
 


  白い雪が
  透明に変わるころ
  蛇口を静かにまわして
  飲みかけのビールを捨てる
  部屋を照らしている
  つけっぱなしのテレビ番組と
  灰皿に残った、ただ一本の吸殻
  ぬるい夜は月明かりを浴び
  声をひそめて笑っている
  ただ、ひとことの
  サヨナラを言うためだけに
  君のくれた長い電話は
  ついさっき終わってしまった
  ふかい井戸の底に落ちて
  砕け散ってしまった
  笑うだろう
  君は、明日きっと
  些細なことで笑うだろう
  僕もそのうちきっと
  サヨナラ
  サヨナラ、
  白い雪が
  鮮やかな色をなくしたころ




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