レモンの花が咲くところ/コーリャ
畑の全景だった。白い花の群れが溢れる光だったころの思い出を懐かしんでいた。まるで世界の始まりの日に盗んできたような情景だ。僕はその花の名前を知らない。裏面には走り書きで。『レモンが花咲く国を知ってる?』 そう書いてあった。馬鹿にしないでほしい。それがレモンの木の花でないことは僕でも分かる。分かるけれど、なるほど。美しい国だ。僕はその絵葉書に書きこみを入れる。名もない花の国。アルバムの最終ページに挟む。アルバムを閉じる。パタン。
*タイトルはゲーテ「ヴィルヘルムマイステルの遍歴時代」第3巻第1章から。原文は"Kennst du das Land, wo die Zitronen blühn"
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