帰郷/aria28thmoon
ん。」
しかしおかえりなさい、と答えたであろう父母の懐かしい声すら、わたしには上の空でありました。
わたしはあらためてその人の透明な瞳のおくを見つめ、彼の心のなかに在る水たまりに映された像を見つめておりました。
「……観月さん」
わたしの声に無言の微笑みを浮かべた彼は、ほんとうにうつくしかった。
そしてそのきらきらと輝く水たまりに結ばれた像が外ならないわたしの姿であったことが、わたしがそれまで繰り返してきたいくつものため息をまったく無駄なものへと変えてしまったのでした。
あのときの一瞬の曇りなど、気にとめるほどのものではなかったのです。
1年ぶりのふるさとの道を4人並んでゆっくりと歩いていると、雪解け水が道路のあちらこちらに水たまりを作っていました。
ふっと風が止む静寂のなか、水たまりの中に浮かんだ4人の姿を見つけたわたしは、なぜかあらためて観月さんのその言葉に納得し、ひとりそうっと微笑むのでした。
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