耳鼻科で泣く/木原東子
 
二歳くらいのまだ舌足らず
睫毛の長い女の子と
並んで待つ間に
若い母親と世間話など

診察室のてんやわんや
医師はくり返した「きっと泣くよ、泣くよ」
彼もいやだったろう
施術は長く、泣き叫ぶ声は止まぬ
怖くて泣くのではない
いたい、も言えない
ただ痛い、いつまでも

母の心はいかにと
重く耐えられずに逃げて出る
かろうじて
いいさ、あの子は死ぬ訳じゃない

干ばつがあれば
キャンプの子らは死ぬ為に泣く
この世から見捨てられた
飢餓の子たちは
やがて泣く力も失うのだ


耳鼻科はいやなところだ

若い日に、耳が痛い夢を見た
それは夢ではなかった
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