寒い日/草野春心
 


  寒い日は
  煙草を一本吸うことも
  悲しみに沈むことも
  完璧すぎるほど完璧なのです



  だから、なるべく
  傷を負わないように
  躓いたりしないように
  歩いてゆくのです
  ポケットに、乾いた手を
  ニット帽には、足りない頭を
  胸の内には、思い出を
  ぶっきらぼうに突っ込んで
  けして
  手離さないよう
  大事に歩いてゆくのです



  寒い日は
  透明な鏡のなかに
  放り込まれるようなものです
  悲しむことも
  誰かを愛し
  些細な傷を負うことも
  永遠に繰りかえされ
  寒い日には
  それもまた、
  微笑みながら
  頷けることに思えるのです




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