帰る(五月雨降られ)/AB(なかほど)
 
こえず
いつもは待ち望んでいた
月が見え始めるから
まだ僕は
窓の外の音に耳を澄ませている
ようやく
雲がかかり始めた月を見ながら
君の
よっぽど いいよ
という声を
また思いだしている
ざわっとひと風ふいた
もう少しで降ってきそうだから
もう少し耳を澄ませている

もう降らないのかもしれない
もう降っているのかもしれない



戸越銀座商店街は
貧乏研究生のオアシスで
なかなか馴染みにしてもらえなかったが
いきつけの定食屋もいくつかあり
あの日一服した後
雨もあがったから国文研に行かないか
と君がなにげにいいだしたので
行ってはみたものの

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