incidents/kaz.
届かないところへ逃げてしまう。いいや、最初から手などなかったのかもしれない。断定によってつなぎとめておくことはできないから。
ぼくの中に神はない。胸の奥の暗がりにも、切り裂かれた血管の空洞にも、再生する細胞のうちにさえも。永遠はなく、ただ虚無ばかりが支配するこの地。いや、地と呼ぶほどにここは豊潤ではない。ぼくがぼくの肉体を旅している、という矛盾が解かれない限りは。今や、死の印象ばかりが、ぼくの魂の小窓にいくつも映る。女の胸に浮かぶ、青い稲妻、青い暴風雨、その中に漂う真っ青な海、防波堤。その果てにある小屋で、ぼくは眠っている。
矛盾が解かれるとき、堤防は決壊し、輪郭を失って、世界にぼくであるということが流出する。言葉は解体された。意味は、もはや形作ることをやめ、切り離され、生み出されたいくつもの空洞を光が埋め尽くす。それを口にすることができない。語ること、咀嚼すること、唇を運動するあらゆる動作、そのすべてが、それ自体で満ち溢れたまま。ぼくは女の胸に顔を埋めていく。視界は青く染まり、どこへも逃げ出せないという気がする。この孤独に満ちた景色の中からは。
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