ずぅっと前のエピソード/板谷みきょう
 

笑いながら、話し掛けてきた

その後に解ったのは
構音・言語障害のなかで
語られた彼女の言葉からでした

「わたしが車椅子から
転げ落ちたら
知らない男の人が
私に
抱き付いて来たので
恐ろしかった。」

介助に慣れてると云う
仲間の一人が

「どんな時にも
まず一言、声を掛けて
それから
手伝いが必要ですかと
尋ねるのが常識ですよ。
いきなり
何も言わずに抱き起こそうと
手を出したら
それこそ
どさくさに紛れたセクハラ
じゃないですか。」

そ、そうなのか

ボクは
その車椅子の若い女性に
謝りながらも
とっても複雑な思いを抱いて
複雑な表情を
浮かべていたはずだった

街頭の明りが灯る暗闇で
影だけしか
見えなくなっているけれども
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