夏休み丹沢で鹿を見た/天野茂典
 
   


   鹿が林道を歩いていた
   ぼくの車はそっと後を追った
   鹿はすぐ気づいたらしい
   猛然と走り出した
   ぼくもスピードをあげた
   鹿が消えた 山の急斜面を
   駆け上ったのだ 上れなかった
   ( ずり落ちてきた
   林道の下は川である
   鹿は道の縁に立っていた
   眼があった
   うるうるしていた
   若い鹿だった 攻め立てられたものの
   恐怖の眼だった 一瞬鹿は今度は
   くだりの急斜面を転げるように下っていった


   あのときの鹿の目はまだぼくの夏休みに
   焼きついている


         2004・11・28

 
 

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