彼の名残り/HAL
 
事務所の近くで珈琲を飲んだ
でもそのときの彼を見てぼくは自分の眼を疑った
彼はまるで別人かのように一気に年を老いていた
そしてそれからすぐ彼は遺書も残さず首を吊った

淋しそうには感じなかった
辛いとは口にもしなかった
でも一本の電話すらもなく
別れの言葉も残すことなく
彼は独りでこの世を去った

彼はいつ自分の間違いに気づいたんだろう
ぼくが知っているのは大きな声で喋り笑い
好きな都はるみを歌うその歌声が彼の記憶
彼は間違いを打ち消そうと陽気だったのか

短い縁だったけどその縁は深いものだった
それなのに彼はぼくには何も残さす逝った

国はどれだけの間違いを
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