ぬるま湯/まーつん
倦怠は ぬるい酸のように
この肌を 柔らかく溶かしていく
このバスタブから 立ち上がれば
街の風が 洗うだろう
むき出しにされた 俺の白いあばら骨を
カルシウムで出来た 籠の網目の隙間から
こぼれ落ちそうになっている
腐れかけのナマコのような
心臓を 肝臓を 胃を 膵臓を
レギュラーサイズから ビッグまでそろった
退屈な日常の中で 使われないまま錆びついていく
一人の男の 古びた鋼鉄の 肝っ玉を
今は湯気の奥に滲む 萌木色のタイルを眺めながら
春の訪れを 手繰り寄せていたい
今日という日は いずれ薄く延ばされ
乾いたバスタオルのように
棚の奥にしまわれる
戯れに
お前を奪ってやろうか
その清廉潔白な人生に
このかいなで 黒い手形を付けてやろうか
使い道のない命は
星の懐から飛び出した
流星に似て
俺は徐々に 迷い始めている
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