無口な町/
草野春心
その町は無口なので
バナナという言葉がひとつ
朝の庭で凍りついている
曇った窓の向こうでは
魚一匹棲んでいない
汚い川に沿って伸びる土手を
雪をかぶった一頭のカモシカが
のそりのそりとさまよい歩く
その町は
ひどく無口なので
椅子に座った小さな老婆は
時間という言葉をひとつ
吐き出すそばから飲み込んでいる
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