ウブゴヱ/望月 ゆき
の高さ、中庭、巨大迷路、
風にひるがえる、カーテンのむこうで、子どもたちは毎日、未来を足し算している。そのありふれた朝もまた、おなじように。
しずかに、潮流が校舎に流れこんで、この部屋の深い深い底で、奏者を亡くしたピアノが、溺れる。水はいつもやわらかく、森は無口にほほえんでいる。
なつかしく、沈黙がかなでられ、積乱雲は無数の、シルエットを飲みこみながら、浮腫(むく)んでいく。
歌は、誰かの叫びのなかに沈殿している。
海よ、あなたのようになれたらと、笑いながら、または泣きながら、
かつてあなたが愛した、その景色はもう、
海よ、あなたそのものに、なってしま
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