この海は深く呼吸する/ただのみきや
心の奥底から
ぼこん ぼこん
呻くように
呟くように
一つ
また一つ
上がってくる
白いあぶくを
押しつぶす
日々の生業に
心を添わせようと
外側は
辛うじて
規格品を保っているが
中身は落ち窪んで
渇いた目
擦り切れた手足
祖国を追われた
難民のよう
たまには
感じるまま
血の音楽に身をゆだね
凪なら 凪のまま
時化なら 時化のまま
海になって
太陽が似合わない
なんて思わないで
世界中の誰の
視線をも気にしないで
広々とした
海になって
わたしから跳ね上がる
輝く魚たちを
あなたの空を自由に舞う
白いかもめたちが
見つけてくれるなら
ああ どんなに楽しいことか
目をとじて
ただ感じてみる
ああ どんなに
楽しいことか
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