夏だった/永乃ゆち
 


髪の毛が少し伸びて珍しく風邪をひいていた
困ったような笑顔は変わらなかった
何かを言い出そうとして飲み込む癖もそのままだった

最後の電話で何を伝えたかったのか
今はもう思い出せない

あの人の欲しがった言葉も仕草も
もう忘れてしまった

さよならを意識しないまま別れた夜は
夏の終わりだった

私たちは同じ思いを飲み込んで
同じ思いを欲しがっていた
そう考えると馬鹿らしく泣ける

言葉の端々に笑いがあった
あの頃はまだ

夏だった
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