すべてが敵でも味方でもなく/ただのみきや
 
月は敵でも味方でもない
その光は冷え切ったこの身を温めてはくれない
ただいつも美しく
いつも見つめてくれるだけ
月は訴えることはしない
だが証人にもなってはくれない
寡黙な隣人だ
星もそう
空も同じだ
世界は美しいもので満ちている
それに気づくときも
そうでないときも
花を求めても花だけでは生きられず
海に近づいても海と一つにはなれない
雪はすべてを覆ってくれるが
あまりにも冷たすぎる
ああ焼き尽くす太陽よ
おまえなしには生きられず
おまえによってすべてが干からびてゆく
街を歩き
人ごみに紛れても
そこに宿ることはできない
人恋しさと煩わしさのはざまで
いたたまれないのだ
期待しすぎてはいけない
失望しすぎてもいけない
世界は敵ではない
そして味方でもないのだから
きみもそうだ
きみにとっての
このわたしも
世界のすべては孤独な旅人だ
互いに通り過ぎるとき
良き隣人でいれるなら
いや 
良き隣人と思えるなら
それでいい
すこしさびしくて
ちょうどいい
世界は美しくて
すこしさびしいものなのだ

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