歌と境界/木立 悟
 




赤い鉄橋が
鳥居のように立ちつくす
影の硝子の奥の午後


さわれぬ光をさわらず昇り
灯は街から剥がされて
夜は緑へ緑へ向かう


昇りゆく灯のさらなる上を
虎は狐を踏みつけて飛ぶ
霧に折られた街からは
歌声がひとつ聞こえくる


雷の朝
鳥はほころび
蜘蛛は帰らない
何処も開けてはいないのに


窓に奇妙な花が咲いた日
重さの無い鏡が増えるので
言葉を水たまりに置いてゆく


岩くぐる川
無人も無音も細く明るい
水紋は水紋に無数に生まれ
無数の正しさを打ち消してゆく


冬が照らす根を
曇から落ちる曇を追う目が
遅いまばたきに見つめていた
流れを 波を 見つめていた


ひびわれた壁の夜空には
無い街がにぎやかに映り込み
鉄橋の赤の外側に
朝と午後は手を結ぶ
朝と午後は手を結ぶ
























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