裁縫/
草野春心
西日でぬるくなった床に
灰色のハンチング帽を落とす
埃の膜がふんわりと散って
光の白い模様を描く
リュックサックをベッドに抛って
窮屈なコートをハンガーにかけ
少しずつ
少しずつ耳を澄ますと
透き通ったふたつの針が
誰かの膝の上でチクチク動き
柔らかな塊を縫っているのが聞こえる
手のひらで器用に向きを変えつつ
慈しむように糸を通すのが
一本目の煙草に火をつけ、僕は
じっと立ち止まっている
その塊が僕に
手渡されるのを待って
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