Adam's Apple/佐々宝砂
 
請ふ恋ふと鳴く鳥あはれあはれなれば抱きしむべし夜に勃つ人よ

我になき器官妬まし怒張せしものに歯を立て君を見上ぐる

我ならぬ生物の一部飲み込むる我は一本の管なりけるか

快楽に耐えて噛みたる唇の血泡の滲む猿轡かな

涙溜めておもちゃにしてと乞ふ人を鞭打つ腕の鈍き疲労よ

       *

生きてゐる手が愛撫する生きた肌死ぬ死ぬといふ喘ぎを嗤へ

いつからかそれを聴かねばまぐはへずカストラートの白き歌声

湿りたる音懐かしみ崩れゆく骨に乾きし肌重ねたり

ならばこの血を吸ふ虫は何者か蜜壺もなきこの我の血を?

宵闇の粘膜よりも蜜よりも血を欲るのみの Adam's Apple



(初出 今は亡き十八禁短歌投稿所「欲情短歌」)
[グループ]
戻る   Point(3)