水の町の女にさようならを言われる/オイタル
水をお飲みなさい
と
彼女は言った
黄昏の重い扉の手前に立って
指先をしっかり伸ばして
振り返りながら
水をお飲みなさい
と 彼女は言った
この町は
たっぷりの水が流れていく町だ
襟の立った 紺の厚手の洋服を
のどまでボタンを閉め上げて
彼女はしっかりと言い放つ
私はもうこのドアを開けて
黄色い帰宅の時なのです
すっかり 終わりの時なのです
もう
間もなく雨です
それから
雪です
街角に
茶色い家が立ち並び
灯の失せた窓に
赤い信号灯の点滅が続く
狭く立て込んだ路地を
透き通る闇の水が
カーテンを引くように摺り抜けていく
あなた
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