聞き上手/まーつん
 
まま 交わることなく 時間の地平に伸びていく

彼女が天井に視線をさまよわせて ゴシップの芋づるを手繰り寄せている間に
僕はとうとう 口からも 毛穴からも 両の耳から注ぎ込まれた 言葉の水が溢れ出して
こわれた消火栓のように この中華料理店の テーブルの周りを 水浸しにして
ついには そのほとばしりは 赤く染まりだし 僕の自制心が 理性が 寛容が
血液や 内臓や 彼女の言葉の奔流によって ばらばらに押し流された骨の
一本一本と共に 薄皮一枚残して 床にまき散らされ 

そしてふと彼女は 誰もいない椅子に向かって
テーブル越しに話している 自分に気付く
当惑して立ち上がる ハイ
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