聞き上手/まーつん
 
彼女が話す
僕が聴く

彼女が 引き続き話す
僕が 引き続き聴く

やがてこの身体は 彼女の声でいっぱいになり
両耳から注ぎ込まれた言葉が
目から 鼻から
(口はまだ 我慢強く結ばれて)
水となって 溢れ出す
僕はそれを 心の胃袋に
飲み下すことが できなかった
有名人の 知人の 噂話 陰口
関心のない話題 ばかりだったから

彼女の目は 記憶の部屋に置かれた スクラップブックを辿り
僕の目は 今この部屋にある 窓の外を見つめる
彼女は 誰それが何をしたと語り
僕は 夜に滲むネオンに感じ入り 
同じ部屋にいながら 二人の思いがたどる道は
互いに平行したまま
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