ゴミ屋敷の日雇い労働者/三原千尋
 
く笑えない
あの人みたいにやさしく守れない
ゆえに
わたしだけの
生存と
浪費のために
すり減らして
かせぐ

すり減りきった夜に
果実みたいな月が冷えている
夏に食べたらきっとおいしいのだろう
体内にこんがらがった熱がほどけて
しゅわ、と消えてゆくのだろう

なんのために
歯車でいるのかを忘れてはいけない
ぎざぎざした歯がすべて折れても
あの月にはなれない

なんにもしてくれない月にさらされて
生きていてねと祈られるアテレコと戯れて
わたしの脳みそはいつもひとり遊びのためだけで
夏まであの月を取っておけるかもあやうい
わたしには時間がないから
給料日までのカウントダウンを
繰り返し
更新し
忘れ
気がつけばよくわからない数字が累積しているだけ

いたずらに累積した数字たちと
冷えてかぴかぴになった一昨年の夏の太陽と
溶けてぐずぐずになった去年の冬の月と
そのほかありとあらゆる美しかったごみくずと
そこから漂ってくる腐敗臭とが
読み解かれるのを待っているのにも気づかないまま
今夜もわたしは臭い女をバスタブで煮出す
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