中平卓馬『キリカエ』展に関する覚書/DNA
そこは30畳ほどの、奥行きのある長方形の、真っ白な空間であった。
四隅をピンで留められた写真たちがぶっきらぼうに並んでいる。
草木。
ドラム缶から立ち上る火。
テトラポッドに打ちつける波。
日に焼けた男の路上で眠る姿。
これらはまごうことなく、写真であった。
色が濃い、草木の葉がやけに肉厚にみえる。
あたかも、近視眼の人間が世界を食い入るようにみているようだ。
しかし、カメラという機械を通したとき、近視眼の人間は、焦点が世界全体に及ぶことを知る。
そうして、写真のなかのさまざまな〈物たち〉がにわかに音を立て始める。存在を主張する。
写真に封じられた、ひしめき合う物質たちの、雑音がとても眩しい。
また、プリントされた写真は、それが本来紙であることを思い出したかのように、ピンで留められたまま撓んでいる。
中平卓馬『キリカエ』展。
通常の写真の展示という感じが全くしない。
二重の意味での、物質としての写真たちが、あられもない姿態を露呈しているのだった。
(2011.5.22 心斎橋 sixにて)
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