春を待つひと/恋月 ぴの
 
誰もが幸せであることを望み
それに見合うだけの不幸せを我が身に背負う

故に生きることは辛く

苦しい




ふと目覚めれば凜として未明の寒さ厳しく
曖昧では済まされないこと知りつつも

北風に弧を描く白い首
羽を繕う渡り鳥へ思いを託す




明日は訪れる
等しく誰のもとへも

不確かな手触りのままで

それでも伝わってくるのは
生きる限り日々歩まざるを得ないこと

いつまでも岸辺に佇むことは許され得ないこと

吐く息は白い

物憂げな溜息か
生きる故の喘ぎなのか

渡り鳥は鳴いた
曇天の

岸辺に張った薄氷の




春になれば

その思いで一心と
頭上に振りかざした鍬を振るう
まるい背中は力強くも

「今しばらくは生きながらえていたい」

敢えてそんな言葉を口ずさむ






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