スペースシャトル/フォーカス/茶殻
つようになった
客席はなく
私の生活はみな暗幕の中での静物だったのだ
童話の挿絵のなかで固まってしまったかさぶたが
虚空の彼方からぽとりと落ちてきたのだと思った
灰のようなにおいをまとって
音のないジオラマに老翁と老婆が生活を始める瞬間に
窓の向こうから煙が立ち昇ったのが見えた
コートを羽織り私は出かける
シリンダー錠を閉めて振り向いた途端
帰宅する頃にそれが解けてなくなっている確信が
強くなった
ケヤキの黙秘は誕生と死別の空間をにおわせ
それぞれの体温の中で
春がふつふつと沸き立つ音がしている
薄くにごる雲の往来
私達の季節の立体、猫舌の朝はねずみ色の息をしていた
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