月の味方は詩人だけ/ただのみきや
神秘のヴェールを失った
月は一個の衛星
人類にとって偉大な一歩は
月を地面に引きずり下ろした
足跡をつけられ 征服ずみの旗を立てられ
凌辱されたかつての女神は
いまでは早い者勝ち
勝手に売り買いされているらしい
そんな無機質なあばた面と
今もかわらない付き合いをするのは
詩人ぐらいなもの
古今東西詩人たちは
月を詠い 月をしたためた
多くの詩人は詩では食えない
昼間は働き 夜詩を書くものだから
「絵のない絵本」の画家のように
月と親しくなってしまう
詩人は聞こえない声を聴き
語らないものに語らせる
月が神秘を失っても
詩人の心にはそれがある
月は詩の中で何度でも輝きを取り戻し
夜の主役を演じ切る
往年の名女優さながらに
女神を装い 死を演じ
ロマンスを生み出し 狂気を孕む
さあ 殺伐とした昼の街並みの緞帳が上げられた
今宵はわたしが観客だ
その冴え冴えとした微笑みで
沈黙のアリアを歌っておくれ
まだまだ雲には入らないで
その一瞥で打ってくれ
わたしの詩心を打ってくれ
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