契約/まーつん
 
愛していると告げた時
何かが間違っていた
それは
蜜を湛えた
花というよりは
壁から伸びた 鎖だった

君という船を 僕という港に 繋ぎ止めておくための
その言葉は 何も与えずただ 拘束するだけ
この胸に 抱く気持ちは 愛ではない
僕は はじめから 気づいていた

人は 孤独の海を渡る船
帰る港を求めて 雨の日も風の日も
その心は 甲板に顔を出し
遠眼鏡をかざして 陸の影から手招きする
灯火の揺らめきを 探している

波と風は 気まぐれに表情を変えて
嵐に漂う 木の葉のように 君をもてあそぶ 
凪の日が帰ってきても 静けさが君の心を 締め上げる
船室に飾った 一輪の薔薇の慰め それも日ごとに 色褪せていって

君は気づく 花でさえ 見返りを求めて 蜜を差し出す
その甘いキスに酔った 鳥の羽毛のポケットに
そっと繁栄の種を 忍び込ませて

愛は 契約
与え合うと誓った
寄る辺なき 二つの魂
絡み合わせた 互いの指先を
やがて 茨の蔦が つつみこむ
その鋭い棘で 絶えることのない痛みを

与えながら

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