言葉すら描けなくなったら、僕には何も残らない/智鶴
 
世界が未だ夢を描いている頃
君は光を持たずに生まれた
憂いの色褪せた匂いと冷たさ
それだけを持って君は捨てられた
この砂漠
この砂漠に

指みたいな形の渇きと
庭中に植えられた灰色の花
只一つ紅く輝く僕のバラと
この世界
君には見えない
君は美しさを知らないから

「壊してよ!」
色も温度も伝えられない君が
珍しく口調を荒げて言った
僕の悲しみを
「壊してよ!」
夢に色が付いたこの瞬間だけ
君の世界も色付くから
その一瞬
砂漠の砂に似た意識の味

知らないのは君の空の色
見たこともない美しい空を
「君は全く何も知らないんだ!」
君は驚いていたね
井戸の水に託した
君の足首に絡みついた指先

「壊してよ!」
無限の星空を君は知らない
僕の悲しみも誰かの叫びも
何処かの星の嘘
ねぇ君のための僕の世界を
「壊してよ!」
僕の背負えなかった暖かさを
忘れられない君のいない背中を

僕には届かないだけだよ
壊してよ!!


(ほんの微かな意味だとしても)
(透明よりは色濃く残るのは僕の言葉だ)
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