午後の詩集/たま
 
空いっぱいの夕やけを見たいとHが言う


 寒くない?
 うーん、だいじょうぶ。
 今日はあったかいし絶好の夕やけ日和よ。
 どこがいい?
 うーん、
 海がすぐちかくにあって、川の流れてるとこかなぁ。

今日のHは気むずかしいかもしれない
そんな気がした


汐が満ちてきたのだろうか
屋根のひくい水上バスが通るたびに、河川敷のひろい
遊歩道に群れた冬日が波にさらわれて、隅田川の川面
にすべり落ちては濡れていく
対岸に林立する高層ビルの蒼く澄みきった視線が、河
川敷に佇むふたりをとらえて離さなかった
真冬の森のように
なにもかも落としてしまった素肌の街に
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