詩の山/ただのみきや
 
 山を眺めるのが好きだった
 巡る季節はどれもみな魅力的で
 春の霞とうららかさ
 蝉時雨 打弦の瞑想
 夏の視線と秋の吐息で染め抜いた錦の衣を脱ぎ捨て
 張りつめた冷気の中でも微動だにしない
 気がつけば山ばかり眺めて暮らしていた
 
 だが男は
 眺めるだけでは飽き足らず
 山に登ってみたくなったのだ
 
 頂上は雲に隠れて見定めることもできない
 裾野の広がりに世界を見渡せるほどの その山を
 
 こうしてまた一人 山男が誕生した

 しかし
 男の頭の中に 
 ふっ と
 ある疑念がわいてくる
 
  ”おれは山を登っていると信じていたが
   もしかして ポジネガ反転 ことばの妖かし
   本当は大きな蟻地獄を滑り落ちているのかもしれない
   奈落の底は闇の中 何が隠れているのかもわからない
   その円周は広大無辺 インスピレーションのネットワーク 


          まぁ いいか “
 

 こうしてまた一人 万年寝不足症候群
 素人くさい 投稿詩人が誕生した


   
 
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