人は咲いている 虹色に/るるりら
 

にわか雨が遠ざかったあとの 特別な においがして
草むらの開花のそぶりは どれもこれも霧の中 
足にからむ露を 蹴散らしなから
花畑を駆けぬけると 遠い山は ぐっと近くなり
鬱蒼とした葦の間で 淵が どろりと こちらを視ている 
そして 壊れかけの木舟が一双 
幼い二人の前で おいでおいでと 揺らいでいた

生い茂った原っぱの向こうの
深い森との間にある
「ねぇちゃんは なんで 心太(しんた)なん?
なんで 女ななのに よりにもよって俺と同じ男みたいな あだななん?」
少年のような姉と、男になりたがる弟
解らんことばかっかりの沼の入り口

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