小さな手/木立 悟
 


手をひらき
髪の葉に触れる
手をひらき
道の葉に触れる
手をひらき
手をひらき
離れゆく光の手に触れる



巣にかかった糸くずを
蜘蛛がじっと見つめている
繰り返す震えを見つめている
震えのひとつが壁を登り
まばたきに棲む傷と重なり
ずっとずっと登ろうとする
色もかたちも無い高さまで



肖像画を手にした人々が
地に沈み 空へ昇る間も
何のものなのかわからぬ影が
道に大きくも小さくもなり
濃さと淡さをにじませている



過ぎても過ぎても残りゆく声
穏やかな原にそよぐ手のひら
見失わないようにつぶやかれる言葉は

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