谷川雁論??自己愛と自由/葉leaf
 
し、未来を作り出すのも大変だ。だが、人間を、既成の価値や捏造された価値によって称揚するのではなく、人間が無意味で不当で不条理で偶然的である、まさにその点に自由を見出し、何らの超越的・神秘的な価値に依拠することなく、あるいは依拠しないがゆえに、人間に価値を見出すという態度は一つの説得力を持つし、何もないところから何かが作れるという思想は希望に満ちている。その思想と対置してみたとき、谷川は決して簡単に批判・非難されるような詩人であったのではなく、むしろサルトルの思想とも親和するような側面を多々持っていた。詩人というものはどうしても自己愛や自己神秘化に傾きがちであるが、谷川はそのような規定性によって安易にとらえられるほど安直な詩人ではなかった。谷川は自己の自由を獲得し、他者の自由も承認した。彼のカリスマ性は、彼が単純な自己愛者ではなく、他者のまなざしとも常に対決していたことにも由来するだろう。


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