風/まーつん
んて冷たい
その色のない指先で ワイシャツの襟もとから
ズボンの生地の網目から 容赦なく忍び込んできて
身体をまさぐり 冷凍庫に吊るされた鶏肉(チキン)のように 縮こませる 風よ
今夜お前は 何を失くした
夕暮れの足元を 駆け回り 窓ガラスを 震わせ
道草のカラスを ねぐらへと 追い立てる 北からの 使い番
街という名の 娼婦
その擦り切れた身体の 隅々まであらためる
仮借なき 大空の探り手 無調の歌い手 風よ
俺も 連れていってくれ
お前のねぐらに 我が家に
そして ビル街の黒い 稜線の向こう
遠い冬の海を隔てた どこか 彼方の凍土(ツンドラ)
暗い山脈の懐にあるはずの お前たちの 故郷(こきょう)に
俺はもう 飽きてしまったから
人の姿で いることに
人の心で あることに
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