風/まーつん
風
冷たく また暖かく
風は吹いてくる 駆けつける
通りの角の向こうから 木立の間から
病院の屋上で 夕暮れの空に黒い影を揺らす 洗濯物から
冬の風は 静寂を厭う
その身体をよじらせて びゅうびゅうと ささやく
そして気まぐれだ 誰かが放った 切なる声の矢を
風は さえぎる はたき落とす その強く 透き通った腕で
スカートをめくり 帆船をよろめかせ 子供たちの走る校庭に 砂埃をかきあげる
いたずらの名手 風
そっと 種を掬い上げ 翼に手を添え 気象を導き
巨大な気圧の渦巻きの ぜんまい仕掛けをさえ 引き絞る
透明な力 風よ
今夜お前は なんて
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