濡れた土地/長押 新
 
ください。

OTOKO
まあなんだ、私は博識とは言わないが、煙草を吹かすのさえ、躊躇わなければならなくなった町だよ、口を持つものは誰だって、今では知識人さ。全く以て私の目は正しいね。あすこの男は妻と娘、それから実の両親を失ったのさ。こんな死に方じゃあ、男の愛は切れ切れに縛られているだろうよ。見ろよ、あの縛りあげられて歪んだ顔を。私の目に焼き付いてしまって、お前の顔を見ている時も、あの男の顔が浮かぶよ。男は、本当の意味で一人きりさ。私の女房は、嗚呼、本当に、あれでよっぽど良い方なのさ。これが、天罰だってラジオでやっていたよ。聞いたかね?この町は天罰にあっちまったのさ。天罰に奪われちまうなんて
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