ダイソンの吸引力、恐れることはない/花形新次
 
切り立った崖から
見下ろす景色は
紅潮した頬を持つ
前途有望な少年の瞳には
どう映るのだろうか

気だるさは
深刻さと無縁だったが
ある一定の速度で
おまえの中心を
確実に蝕んでいた

 始まりはいつも突然だった?

いや、
そのことに
おまえが気付いていなかっただけだ

増殖したポーラスが
精神の許容値に達した時
おまえはかつて聴いたことのない
使者の声を聴き
誰も見たことのない川の前に立つ

残されるのは
おまえではない
おまえにとっての付属物だ
ただ、その付属物がおまえの
存在理由なのだ

  付属物はおまえだ
  おまえのほうだ 

おまえは踵を返す
強烈な吸引力を断ち切るように
再び貧しい一歩を踏み出す
付属物が待つ
(それとも付属物を待つ?)
崖の上にある建売住宅の
オレンジ色の屋根に向かって

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